拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 海浜公園を2時間ほど散策してランチを済ませた私達は、せっかくの連休なので、もっと遠出してみようと再び車を走らせた。

 連休 ーー。

 夜は長い。

 車内という密室に彼と二人きり。

 彼に抱かれる覚悟を決めた私は、なんだか妙に意識してしまう。

 「海、綺麗だったね〜っ!」

 緊張の裏返しで私は過剰に、はしゃいで見せる。

 「うん。久々に、リフレッシュできたよ。ここんとこ、プレゼンの準備でカツカツだったから」

 「優斗、プレゼン気負わないでね。私、浦田さんの言ったこと聞く気ないから」

 来週のプレゼンで浦田さんが優斗に勝ったら、浦田さんに食事に付き合えと言われた。
 
 だけど、そんなこと毛頭聞く気はない。
 
 でも。あの鬼畜の浦田さんのことだ、何をしてくるか分からない。

 「大丈夫だよ。絶対に、浦田さんを沙綾へは近づけさせないよ......!」

 優斗は、そう言って私の手を握った。
 
 車内はクーラーが効いていて、スーッとしている。

 重ねられた手の間を涼風がすり抜けて、その後にさりげなく彼の体温が伝わってくる。

 シートの端に置かれた私の手を彼は、繭のようにすっぽりと包み込んでいた。

 涼しい車内で彼の大きな手に包まれた私の手は、まるでそこだけ温室に置かれたような感覚だった。

 彼は背が高いから手も大きいんだ......。

 私は彼の手をギュッと握り返した。

 「運転中じゃなかったら、抱きしめてた。俺の手を握り返した手があんまり小さいから、沙綾が本当に俺の傍にいるのか確かめたくなった.......」
 
 「傍に居るよ。私、ちゃんと優斗の傍に居るよ。だから.......」

 「だから?」

 私を抱いて。

 「後で教えて......」

 信号が赤に変わった時、彼はそう言って私の唇をついばんだ。

 チェリーピンクのリップカラーをつけた私の唇は彼に柔らかく吸われて、瑞々しい雫が弾けるように”ふるん”っと、揺れた。   

 「甘い......」
 
 キスをした後。彼はそう言って、親指と人指し指で私の頬をほんの軽くつまんで悪戯な笑みを浮かべた。
 
 「俺からも。沙綾に、もっと甘いものをあげるよ」

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