拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 彼の言葉に促されて私は、橙色のベッドルームの照明に溶け込んだ彼の琥珀色の瞳を見つめた。

 仄暗い灯りの中で僅に揺らめく、白い水晶玉のような円は優斗の瞳が潤んでいる証。

 「かわいい......」
 
 上目遣いになっている私に彼はそう言って。指先を私の頬にあてがうと、ゆっくりと自分の方へ引き寄せながら唇を近づけてきた。

 「んっっ」

 「......んっ」
 
 やがて私達の唇は重ねられた。

 キスを重ねていくたびに唇は濡れて柔らかく溶け出していく。そして、口内は優しく絡まり合う舌先によって潤いで満たされて心ごと甘い蜜に浸かっていく。

 それでも、全ては満たされていないはず。
 
 「おやすみ......」

 それなのに、彼は今日もキスだけで”おやすみ”と言った。
 
 ”おやすみ”と言った優斗へ私は返事を返さなかった。

 そして、私は拳を丸めて、彼のTシャツをギュッと掴んだ。

 「沙綾?」

 いつもと違う私の態度に優斗は、答えを求めてきた。

 だけど私は、このあとどうすればいいかわからない。

 深夜のベッドルームが私達の沈黙でより静まり返っている。

 窓の外は未だ繁華街の灯りが煌々と真夏の地上を囃し立てているというのに。この寝室だけは深海のようにひっそりとして、重く秘められた答えを手探りで模索しているようだった。

 「......いいの?先に進んでも??」

 
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