拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 おぼろげな意識の中へ、徐々に介入してくる平たい感触。

 いつもの朝とは違う。寂しい違和感を覚えた私は、無造作にシーツを擦った。

 「優斗......?どこ.......?」

 目が覚めると、私はベッドの上で一人ぼっちだった。

 その途端、彼の言葉を思い出す。

 ”震えている”

 ”心が揺れたまま男に身体を預けちゃダメだよ。”

 そして、ベッドサイドに残されたメモ。

 「おはよう。明日のプレゼンの準備で、午前中だけ会社に行ってくる」

 ほんとに?

 昨夜のことが原因じゃないの?

 彼を疑ってしまう自分がいた。

 それなのに。LINEの着信音で私が目を覚まさないようにと、わざわざ手書きのメモを残しておいてくれた彼の優しさに、抗えない愛しさがこみ上げる......。

 優斗の愛情で満たされている時は彼が愛おしい。

 だけど、まるで禁断症状のように。失くした初恋がフラッシュバックする。

 それは昼と夜が巡るように。私の心を二分して、潜在意識の中でどこまでも想いを揺らす。

 そして、昨夜。私の気持ちが揺れていることで優斗を心底傷つけてしまった。

 彼に身を委ねるのなら、覚悟を決めるのではなく。

 私が優斗だけを愛しているかどうかを自分自身に問うべきだった。

 その問いかけは宙に浮いたままになり、古い傷が暴れ出した。

 未来を見つめるのなら。現在の恋人の優斗だけを愛するべきなのは分かっている。

 だけど、それができないのはどうして?

 
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