拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 どうしようもない自己嫌悪の中で目眩に見舞われながら。私は気持ちの整理をつけたくて彼が帰ってくるまでの間、部屋の掃除をする事にした。
 
 昨夜、あからさまに入ってしまった彼との亀裂をどうにか縫い合わせたくて。せめて彼との二人の空間に気を配る事で、未だ生き生きとした二人の生活を演出したかった。

 私は彼が、かわいいと褒めてくれたピンクのふわふわした生地にドッドのデザインがあしらわれた、ポンポン付きのルームウェアを着て彼の部屋から掃除を始めた。

 彼に対して従順な姿勢を見せたかった。

 露骨な言い方をすれば。媚びている、ご機嫌取り。

 そんな姿を彼に見せたかった。

 こんなに子供じみた私だけど。どうしても、このまま彼との亀裂が広がって寒々しい家にはしたくなった......。

 優斗の部屋は、ほとんど物がなく。壁中、本棚に囲まれて窓側に檜の机が置いてあるだけのまさしく書斎というべき空間だ。

 それでも部屋が広いせいで掃除し終わるまで、なかなか時間がかかった。
 
 掃除機をかけ終わってコンセントを抜くと、殺風景な部屋に時計の針の音だけが響く。

 ふと時間を見れば、あと一時間足らずで彼が帰ってくる。

 昨日の今日で私は彼とどんな顔で向き合えばいい?

 そう思ったとき、恐怖に近い感情が私の胸中を駆け巡った。

 秒針の音が大音量で脳内に響き渡り、私は動悸がしてきた。


 
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