拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 「......」

 浦田さんに、”オレのこと嫌い?”と、聞かれても正直に、「はい。嫌いです」もしくは「苦手です」と、さすがにハッキリと口に出来るはずもなかった。

 しかし。質問に対して無言だった私の態度で、よほど嫌われている事を察した様で。浦田さんは気まずそうに目を泳がせながら、

 「まぁ......、いいや」

 と、自分からした質問に終止符を打った。
 
 私は心の中で。”聞くまでもなく、もっと前から察しててよ。”と、言い放った。

 「そっかぁ〜、オレ沙綾ちゃんに嫌われちゃってるか......」

 本気で凹んでるような素振りなんてしないでほしい。

 悪いことしたなって、ちょっと思ってしまう......。
 
 浦田さんは、一瞬だけ暗い顔をした後、すぐに表情を切り替えていつものように軽口をたたいた。

 「オレ、沙綾ちゃんに嫌われてるんじゃ今後デートの見込みは無いか.......。じゃ、今デートしようっ!」

 「え......!!」

 本当に。この男(ひと)の強引さと軽々しさには参ってしまう。

 私、今先輩の前ですら気を使えないほど落ち込んでるんだから......。

 昨夜の優斗とのことで心の中が、ぐちゃぐちゃにかき乱されている状態なのに。それなのに、たとえ先輩といえども他の男の人とお茶するなんて、すごく自分が中途半端で薄っぺらい人間に思える。

 そして、そんな女と付き合っている優斗のプライドを本人のあずかり知らぬところで傷つけることになる。

 優斗を、そんな情けない立場にするわけにはいかない。

 そう思い、私が浦田さんの誘いを断ろうと意気込んだその時、

 「沙綾ちゃん、なんか元気なさそうだから、ケーキでも食べて元気出してもらおうと思ってさ......」
 
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