拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 浦田さんは、理由こそ聞いてこなかったが、私が心底落ち込んでいるのを見抜いていたようだった。

 そして、その間。優斗の話題は一切振ってこず、仕事の話もせずに。本当に他愛なくて、バカバカしいくらいの可笑しな話をずっと私に聞かせ続けていた。

 鈍い私でも、浦田さんが必死で私を笑わせようとしているのが分かるくらいに ーー。

 そんな風にされたら笑うより浦田さんの優しさに、むしろ泣いてしまいそうになる......。

 浦田さんは今日ここで仕事をしてたのに、私が来たから中断するはめになってしまった。

 ......なのに、何でそんなに機嫌良さそうに出来るの?

  不器用な私には浦田さんの器用さが羨ましくて、取引先の上司に対する気遣いは本当に見習わなきゃと思ってる。

  「沙綾ちゃん、ケーキ全然食べてないじゃん。もしかして、太るとか思ってる?大丈夫だよー!沙綾ちゃん ほっそいから。もうねー、あと5㎝背が高かったら絶対モデルにスカウトされてたよーっ!」

  こういう風に人の動きをよく観れる観察力や、ためらわず相手を褒めるところも見習わなきゃ。

 だって、明らかにお世辞って分かったけど。私すごく嬉しくて、なんだか元気が出た......。

 気がついたら、私は浦田さんの話に笑っていて自然と彼の目を見て話すようになっていた。

 今ここに居るのは本当に、後輩に対して高圧的で冷徹な、あの”鬼畜先輩”の浦田 和志なのだろうか?

 器用な浦田さんのことだ、仕事の顔とプライベートをきっちりと分けているのかもしれないけど。

 でも、だからって。浦田さんにとって会社の後輩でしかない私の前でこんなにプライベートな顔をさらけ出していいの?

 こういう顔は彼女の前でだけ見せるんじゃないの?

 そういえば、浦田さんの恋愛話を聞いたことがない。

 好きな女性とか居ないのかな......??

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