拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 「デートの帰りは、ちゃんと送って行ってあげなきゃなんだけど......。ごめん。オレまだ仕事残ってるから、沙綾ちゃんタクシーで帰れるかな?」

 そう言って浦田さんは、らしくない優しい笑顔をして私に一万円札を握らせた。

 「あっ、今。沙綾ちゃんの手握っちゃった。ラッキー!」

 「あのっ、こんなお金受け取れませんっ!だっ、大丈夫ですっ!私、電車で帰りますからっ......!」

 いつものチャラチャラした感じは相変わらずなのに、どうしてこんなに誠実な対応をするんだろう......。

 今日は休みなのに。浦田さんはこのカフェで仕事をしてて、そして、このカフェは行きつけなんだよね?
 
 浦田さんが行きつけだというこのカフェは繁華街の大通りから外れた静かな小道沿いにひっそりと佇む、油断すると見逃してしまいそうな、こじんまりとしたお店だった。

 昨夜の優斗とのことで気持ちが憔悴していた私は、このカフェの小さくてほっこりとした外観に慰められて扉を開けた。

 中に入ってみたら、アンティークだろうか?教会のステンドグラスのような赤や緑、オレンジ、そして青色の硝子細工が施された綺麗で優美なスタンドランプがカウンターに置かれ一際存在感を放っていて、まるで、おとぎの国に迷い込んだような印象だった。

 現実を忘れたかった私は、この店のメルヘンチックな雰囲気にすぐに魅せられた。

 こんなに、メルヘンチックでノスタルジックな雰囲気のカフェが、後輩から”鬼畜”と称されている浦田さんの行きつけのお店だなんて意外過ぎる。

 でも、私は会社での浦田さんしか知らないし、それに今日プライベートで会った浦田さんは、会社では見たことのない優しい笑顔を私に向けて帰りの心配までしてくれて、すごく誠実な男性に思える。

 
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