拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 なんで?なんで......、優斗そんなに優しいの?

 私は優斗の男性としてのプライドを傷つけたんだよ......!

 「俺は何も変わらないよ」

 「沙綾の過去の傷を消したい」

 どうして私をこんなにまで愛してくれるの??

 優斗、こんな女のためにプライドなんか捨てないでよ......。

 どうしよう、どうしよう、
 
 彼の言葉が嬉しい......。

 「〜〜〜っっ!」

 浦田さんの前で涙を見せるわけにはいかない。

 私は自分に出来る最大限の取り繕い方で、スマホの画面にこぼれ落ちそうな涙を堪えた。

 そして、止めどなく溢れ出しそうな涙と、これ以上ないくらいに”キュン”っと私の胸を絞る優しい胸の圧迫感を、身を硬くして自分の中に閉じ込めた。

 

 「浦田さん。本当に、こんなお金受け取れません......っ!」

 「いや、あの......沙綾ちゃん......、」

 またしても、らしくない。困惑した表情を浮かべる浦田さん。

 私は一万円札を両手でまっすぐに掴んで浦田さんに差し出すと、さらに彼の手元まで運んだ。

 「ケーキごちそうさまでした!すごく美味しかったです」

 眉間にしわが寄ったような不自然な笑顔だったかもしれない。
 
 嬉しさと、切なさと、安堵感が混ざった顔だ。

 「私、そろそろ失礼します。仕事の邪魔しちゃって本当にすみませんでした」

 私は、浦田さんに頭のつむじが見えるくらいまで深くお辞儀をした。

 傷心の胸を甘いスイーツと可笑しな話で元気づけてくれたのは浦田さんだ。

 「お辞儀深っ!(笑).......元気になってくれたみたいで、良かった」

 そう言うと、最後まで”鬼畜先輩”らしくない”紳士なプライベートの浦田さん”は、仕事へと戻っていった。


 まるで板チョコみたいなカフェの出入り口のドア。

 私は”カランッ”と、スズランの花のような形をしたベルを鳴らして、この隠れ家的なメルヘンちっくなカフェを後にした。

< 77 / 136 >

この作品をシェア

pagetop