拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 今、彼の腕の中に居る私には。シースルーエレベーターから見える街の景色が、どのようなものかは全く分からない。

 エレベーターが上昇して身体がフワッと押し上げられたのを感じた私は、これから徐々に街の喧騒は遠ざかって行くんだろうなと彼の腕の中で、ぼんやりと思った。

 ーー もしかして。このままエレベーターの中でキスしてしまうかも......。

 そう思った時、エレベーターは25階で止まり、このマンションの住人が乗り込んできた。

 私達は後ろ髪を引かれながらも指先だけは繋いで、慌てて抱擁を解いた。

 50代くらいの紳士な雰囲気が漂う男性の前で何食わぬ顔を見せながら、後ろ手に絡ませた指先を僅かに動かして、私達は互いの温もりを確かめ合っていた。

 ようやくエレベーターが最上階の43階に到達して扉が開くと、彼と私は品行方正を装って。そろそろと降りた。

 「なんだか、すごくドキドキしちゃった」

 扉が閉まりエレベーターのボタンが下の階を示すのを見つつ私は彼に話しかけた。

 「沙綾」

 優斗、私の話が聞こえてないのかな?

 会話とは言えない。シンプルに、ただ私の名前を呼んだ彼の方へ、ともかく私は顔を向けた。

 「ん.....っ」

 振り返りざまの不意打ちのキス。

 「もう我慢出来ない」
 
 「誰かに見られたらどうするの......っ、ん......っっ」

 「......構わないよ」

 優斗、そんなに切羽詰まった感情を晒さないで。

 "男であるの部分”をこんなに見せつけられたら、私絶対に抗えないよ......。

 唇から覗く彼の舌先に女の本能を刺激されてより感覚が鋭くなる。

 濡れた口内で彼の体温を感じる。

 弾力があって柔らかい彼の舌はゆっくりと回転しながら私の舌を優しく撫でる。その心地よい感触が全身に行き渡って私は力が抜けていった。

 「ん......ぁっ」

 「さすがに。こんなに、かわいい沙綾の姿は誰にも見られたくないな。早く部屋へ連れて行かないと」

 そう言って優斗は熱い唇を離した。そして、キスで濡れた私の口元を親指の腹で優しく拭いてくれた。

 熱が治らない唇に急かされて。彼は部屋のカードキーが入れてあるジャケットの内ポケットに手を入れた。

 その直後。彼の眉間にシワが寄った。

 「優斗、どうしたの?」

 「いや、スマホが......、確か鍵と一緒にここに入れて置いたはず......」

 
< 86 / 136 >

この作品をシェア

pagetop