君の思いに届くまで
「・・・・・・峰岸教授?」

上体を起こした彩が前屈みになっている琉の首に腕を絡ませ、



キスをしていた。


琉はすぐに彩が絡めた腕をふりほどき、その体から離れる。

ひょっとしたら、そんな風になっているかもしれないって、頭の中で覚悟はできていたけど、目の当たりにした時の衝撃は想像以上で私の淡い期待を一瞬にして打ち砕いた。

琉の顔が私に向けられ、私がここにいたことに今気づいたようだった。

振り向いたその表情は見たことがないくらいに険しかったけれど、私を確認した途端、いつか見た悲しい目の色を湛えた。

彩は、下ろした前髪をかきあげながら私をじっとにらみつけている。

「ごめんなさい」

思わずそう言うと、私は逃げるようにテントから飛び出した。

どこをどう走ったのかわからない。

暗い森に続く小道をひたすら走った。

木々の間から時々見える月の明かりだけがどこかへ向かう私の道しるべ。

どうして私があの場所から逃げる必要があったのか。

逃げる必要なんかなかったのに。

随分走った先に川の流れる音が聞こえてきた。

深い森に包まれながら、急に今1人でいることに不安になる。

スマホも持っていない。

慌てて元来た道を戻る。

だけど、歩いても歩いてもその道でよかったのかわからない。

暗闇は益々深くなり、このまま戻れなかったらどうしようかという恐怖心が私を襲う。

私は馬鹿だ。

これしきのことで、逃げだしたりなんかして。

しかも、こんな森の中で。

遭難なんてことになったら、一大事だ。

琉にも学生達にも大学にも迷惑がかかる。
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