君の思いに届くまで
「そろそろ帰らなくちゃな。家まで送るよ。あまり遅くなるとマミィが心配するからね」

琉は自分の腕時計に目をやるとホールの喧騒に紛れそうになるような小さな声で言った。

その言葉は一瞬私を安心させたけれど、心の奥底ではなんだかがっかりしている自分がいた。

琉みたいに大人の男性にこんなにも熱く求められたことは今までなかったからどうしていいかわからない。

それに、琉の本心かどうかもやっぱり信じられないでいた。

こんな年下の私のこと、本気になるはずがないって。

「これ、俺の勤め先」

琉は内ポケットから自分の名刺を私の方へ差し出した。

「ヨウが俺に会いたくなったら来てくれればいい」

私は差し出された名刺を受け取り、しばらく名刺を見つめていた。

さっきのは何だったの?

って思うくらい、その後はまた最初に出会った紳士的な琉に戻り、私を家まで送り届けてくれた。

マミィは「遅かったわね」と心配した顔で私達を出迎えた。

琉は「すっかり話し込んで遅くなりすみません」とマミィに謝った。

謝ることないのに。

琉の横顔を見上げながら泣きそうになった。

明日には琉はロンドンに帰ってしまう。

だけど、まだ色んなことに経験値の浅い私はまだこのまま一緒についていくっていう決断は簡単には下せなかった。
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