君の思いに届くまで
「君の記憶の中の俺は相当な悪人だったのかな」
そう言った後の自嘲気味な笑みが、一瞬カフェで「悪人」の話題になった時の琉と重なった。
その会話を琉が覚えてるとは思わなかったけれど、強ばった私の気持ちがいくらか和らいでいく。
「悪人だった、かもしれないです」
私は、少しだけ笑った。
「そうか。君が言いたくないなら言わなくていい。気になるけどね」
私の笑顔を見た琉も少しだけ口元が緩む。
目の前にいるのは、やっぱりどこからどう見ても紛れもなく琉だった。
私との記憶がすっぽりなくなってる琉。
そんな琉を紅茶を飲みながら見つめる。
夢みたいだった。目の前に琉がいることが。
琉は足を組み替えると、
「じゃあ、俺がどうしてこんな風になってしまったかっていう話をしようか」
と言った。
会わなかった5年間に起きた事実。
聞きたいようで、聞くのはとても恐かった。
緊張でまた体が硬くなっていく。
「あれは、2年前の冬だった」
トントン。
その時、扉をノックする音が室内に響いた。
「はい、どうぞ」
琉は扉に視線を上げて答える。
「失礼します」
そう言って入ってきたのは、正木さんだった。
緊張した面持ちで手に封筒を何通か持っていた。
「峰岸教授宛のお手紙が届いていましたのでお持ちしました」
正木さんはそう言うと、座っている琉にその手紙を手渡した。
「君は?」
手紙を受け取りながら琉は正木さんの方に顔を上げた。
「隣の研究室の柳教授の秘書をやっています正木です」
「正木さんか。峰岸です。今日からよろしく」
琉はさっと椅子から立ち上がると、正木さんに会釈をした。
あの時みたいに、相変わらず紳士だ。
すっと立った長身の姿は、いつ見てもほれぼれするほどにきれい。
「ヨウ」
思わずぼーっと琉を見つめていた私に正木さんが小さな声で呼んだ。
ハッとして正木さんに顔を向けると、「イケメン」と口パクで言いながら「失礼します」と言ってまた扉から出て行った。
もう、正木さん。
後で絶対私のことちゃかすのが目に見えている。
「イケメンに見とれてるヨウにはつとまらないわ。やっぱり私が峰岸教授担当する」なんて言いそう。
さっきまで張り詰めていた空気が正木さんのおかげで柔らかくなっていた。
そう言った後の自嘲気味な笑みが、一瞬カフェで「悪人」の話題になった時の琉と重なった。
その会話を琉が覚えてるとは思わなかったけれど、強ばった私の気持ちがいくらか和らいでいく。
「悪人だった、かもしれないです」
私は、少しだけ笑った。
「そうか。君が言いたくないなら言わなくていい。気になるけどね」
私の笑顔を見た琉も少しだけ口元が緩む。
目の前にいるのは、やっぱりどこからどう見ても紛れもなく琉だった。
私との記憶がすっぽりなくなってる琉。
そんな琉を紅茶を飲みながら見つめる。
夢みたいだった。目の前に琉がいることが。
琉は足を組み替えると、
「じゃあ、俺がどうしてこんな風になってしまったかっていう話をしようか」
と言った。
会わなかった5年間に起きた事実。
聞きたいようで、聞くのはとても恐かった。
緊張でまた体が硬くなっていく。
「あれは、2年前の冬だった」
トントン。
その時、扉をノックする音が室内に響いた。
「はい、どうぞ」
琉は扉に視線を上げて答える。
「失礼します」
そう言って入ってきたのは、正木さんだった。
緊張した面持ちで手に封筒を何通か持っていた。
「峰岸教授宛のお手紙が届いていましたのでお持ちしました」
正木さんはそう言うと、座っている琉にその手紙を手渡した。
「君は?」
手紙を受け取りながら琉は正木さんの方に顔を上げた。
「隣の研究室の柳教授の秘書をやっています正木です」
「正木さんか。峰岸です。今日からよろしく」
琉はさっと椅子から立ち上がると、正木さんに会釈をした。
あの時みたいに、相変わらず紳士だ。
すっと立った長身の姿は、いつ見てもほれぼれするほどにきれい。
「ヨウ」
思わずぼーっと琉を見つめていた私に正木さんが小さな声で呼んだ。
ハッとして正木さんに顔を向けると、「イケメン」と口パクで言いながら「失礼します」と言ってまた扉から出て行った。
もう、正木さん。
後で絶対私のことちゃかすのが目に見えている。
「イケメンに見とれてるヨウにはつとまらないわ。やっぱり私が峰岸教授担当する」なんて言いそう。
さっきまで張り詰めていた空気が正木さんのおかげで柔らかくなっていた。