君の思いに届くまで
どう表現すればいいんだろう。この気持ち。

何か言いたい。琉に自分の気持ちを伝えたいのに幼い私はその術を知らない。

「ヨウはかわいいよ。愛しくてたまらない。おかしくなりそうだ」

琉がそんな私の気持ちを察したかのように強く抱きしめた。

そう、おかしくなりそうだった。

自分の今まで生きてきた正しいと思う1本の線を引きちぎってしまいたくなるほどに。

おかしくなっても構わない。

誰に軽蔑されたって、誰かを傷付けたって・・・。

「俺の家に一緒に帰ろう」

私は大きく琉の胸の中で頷いた。

今すぐにでも琉にもっと強く、もっと激しく抱きしめられたい。

こんなこと今まで恋してきた誰にも思ったことがない強い感情だった。


琉は私からゆっくりと離れると、暗い部屋の中を月明かりの方へゆっくりと向かい自分のアタッシュケースを手にした。

そして私の手を取ると、黙ったまま部屋を後にして学舎を出た。

学舎に隣接する駐車場には琉の車が停まっている。

当たり前だけど、大きな見たこともない外車の前でキーのボタンを押しその扉を開けた。

「乗って」

「はい」

結局再会してすぐに暗闇に取り込まれたから、琉がどんな表情をしているのかは見えないままだった。

車は静かに校内を抜け、さっき一人で入ってきたその荘厳な門をくぐって外に出た。


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