君の思いに届くまで
街の中心部だろうか。

さっきまでの静かな暗闇はどこかへ去り、湖光と明るく昼間のような活気のある場所を通り過ぎる。

「お腹空いてない?」

琉の声がした。

その声の方に顔を向けると、ずっと会いたかった琉のきれいな横顔があった。

口元を少し緩めながら琉も私の方に優しい眼差しを向けた。

「お腹、空いてます」

そう言った途端、私のお腹が「ぎゅー」っと控えめに鳴った。

は、恥ずかしい!お腹のばかばか!

思わず自分のお腹を押さえるも、もう時既に遅しなわけで。

熱くなった顔を下に向けた。

琉は静かに車を路上脇に停めると、「ほんと、ヨウは最高だね」と言って笑った。

「失礼だと思います。そんなに笑うの」

あまりにおかしそうに笑う琉に少しむくれた顔をして返した。

「ごめんごめん。決して馬鹿にしてるわけじゃなく、ヨウを見てると全く飽きないんだ。ずっと見ていたくなる」

「お腹が鳴らすような品のない女性はきっとあなたの周りにはいないんでしょう?」

私は甘い言葉に惑わされないように、強気で言いながらプイと顔を背けた。

「ごめん、ヨウ。そんな顔しないで」

横を向いている私の背中に琉の腕が回る。

「え?」

と驚く間もなく助手席の私は琉にあっさりと引き寄せられていた。
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