君の思いに届くまで
グラスを空けた琉はウェイターを呼び、ミネラルウォーターを頼んだ。

私が必死にローストビーフを切っている様子を、琉は微笑みながら見つめている。

目があって思わず手が止まった。

「あの、なんでしょう?」

「一生懸命切ってる姿がかわいいなぁと思ってね」

顔がかーっと熱くなる。

どうして、そういうこと言えちゃうんだろう。

そんなこと言われたら、恋愛初心者の私はどんどん琉に飲み込まれていく。

どこまで飲み込まれるのかわからないブラックホール。

どっちへ自分の気持ちを持って行けばいいのかわからないくらいに底の見えない真っ暗闇。

「でも、まさかヨウが本当にここに来るなんて思わなかった」

運ばれてきたミネラルウォーターを自分のグラスに注ぎながら静かに言った。

「・・・あなたが来てほしいって言ってたから」

何となく自分の気持ちをごまかしたくなってぼそぼそと呟いた私を見ながら琉はふふっと笑い前髪を掻き上げる。

「俺が頼んだから来てくれたんだ」

なっ・・・。

琉は穏やかで優しくて紳士的なのに、どうしてか時々すごく意地悪な言い方をする。

そういうとき、琉の本心が一瞬見えなくなる。そして、私はますます琉に惹かれていくんだ。

ドキドキする胸を押さえながらビーフを口に入れてビールで流し込んだ。

「違う?」

琉は私の顔を尚も不敵な笑みを浮かべながらのぞき込んだ。

きれいな茶色の瞳と目があって思わず狼狽える。

「それもありますけど・・・」

「俺はヨウの本心が知りたいんだ」

「・・・知ってどうするんですか?」

「ヨウが俺に対してどういう気持ちを持ってるのかはっきりしなければこの後君を抱けないからね」

ドクン。

私を抱く??

もちろん、それは私自信もそうなるであろうって思ってここまで着いてきたわけだけど、私の本心がわからなかったら抱かないってこと??

琉はマッシュポテトを口に入れ、唇の脇に少し着いたポテトをペロッとなめた。

ただそれだけの動作が私にはとても魅力的でそんな琉に釘付けになっている自分に気付いて慌ててうつむいた。

これ以上琉に自分の気持ちをごまかしたくない。

だって私は・・・。






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