君の思いに届くまで
「あなたに言われたことで、安心して自分の気持ちに正直になれた」

琉はグラスを傾けながら目線だけ私に上げた。

「自分の気持ちに正直になれたからここに来たの?それって具体的には?」

「あなたに会いたいっていう気持ちがそうさせたの」

「そうか」

ゆっくりとグラスをテーブルに置いて、まっすぐに私を見つめた。

「じゃぁ、今夜ヨウを抱いていい?」

すぐに頷きそうになった自分を制する。

抱いていい?って言われて「はい」なんておかしくない?

女性として、すごくいやらしいんじゃないかって思ってしまう。

今まで「抱いていい?」「はい」なんて会話誰ともしたことがなかったから。

なんとなく暗黙の了解で、そういう風になっていくわけで。

かつて、本当はあんまりだな・・・なんて心の中で思ってた相手とも恋人っていう繋がりがそういうことしていいっていう契約を結んでいるみたいで仕方なく抱かれたこともあったっけ。

一体全体、琉の本心はどこにあるんだろう?

これは優しさなんだろうか。

それとも、琉の中にある後ろめたさがそう言わせてるんだろうか。

結局私の気持ちを翻弄させるようなことばかり言ってくるけど、琉の私への思いははっきりわからなかった。

琉にはフィアンセがいるわけだし。

本心が知りたくて、気付いたら食い入るように琉の目を見つめていた。

「俺の本心を探ろうとしてる?」

琉の目がふっと緩るんだ。

図星すぎてその目を見つめながら体が硬直した。

「ほんと、ヨウは正直だね」

そう言いながら、おでこに手を当ててくくっと笑う。

そんな仕草はとても余裕があって、いくら私が対等に戦おうとしたって叶うわけがないと悟った。

でも、そんな琉が私にはますます魅力的にうつる。
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