君の思いに届くまで
琉が長い指で前髪を掻き上げながらグラスを傾ける。

そして、私を少し挑発的な目で見つめた。

私。

弄ばれてる?

やっぱり、大人の男性にからかわれてだけだよね。こんなこと絶対おかしい。

幼くて、まだ本当の恋だの愛だの知らない私はこういう男性には格好の餌食なんだわ、きっと。

ヨークで熱い眼差しを向けて「恋に落ちた」っていうのは、口からの出任せでこいつなら落とせそうな気がしたから。

まんまとひっかかってロンドンまでおいかけてきた私は本当に馬鹿だ。

見つめる琉の眼をしっかりと見据えた。

急に決意を新たにした私の眼を見て、琉は一瞬目を見開く。

「ん?」

でも、その口元は余裕の笑みをたたえていた。

「私、ここに来たのは正直、もう一度あなたに会いたかったからだわ。それは本当」

琉は微笑んだままゆっくりと頷く。

「だけど、あなたに抱かれるためにここに来たんじゃない」

テーブルの下の手をぎゅっと握り締めた。痛いくらいに。

琉は足を組み直し、背もたれにゆったりともたれた。

「そうか。それがヨウの本心だと受け止めよう」

私は首を横に振った。

「それだけじゃないわ。私あなたがそんな人間だとは思わなかったし。あなたに対して大きな誤解があった」

琉は顎に手をつけ「誤解?」と尚も面白そうな顔をする。

「最初はすごく紳士っぽく振る舞って私を安心させて、だけど実際はフィアンセがいる身でありながら、こんな年下の訳のわからない私にまるで気があるようなそぶりみせて、私の心を弄んで。結局は私の体目当てだったんじゃない?」

そう言ってしまってから、とんでもなく稚拙で破廉恥な発言に我ながら今すぐに撤回したくなるくらい恥ずかしくなる。

横に目をやると、隣の太った紳士は楽しげにビールを飲んでこちらには目もくれていない。

幸い周囲には日本語を分かる人間はいないようで安心した。
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