君の思いに届くまで
「琉、あなただったの?どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」

温かい琉の手をぎゅっと握り返した。

私の心の奥の引き出しにそっとしまっていた淡い優しい記憶が一気に蘇る。

確かあの日の琉は眼鏡をかけていた。

だからすぐには同じ人物だって気付かなかった。

だけど、その横顔と優しく微笑んだ口元は琉そのものだ。今ならはっきりわかる。

「もっと早く言えばよかった・・・そうだね。だけど、俺も本当にあの時の君がヨウなのかって確信が持てなかったんだ。クルーズ夫妻の庭でつまらなさそうにイスに座っている君のつぶらな目と少しピンクの頬があの日の君と重なっていたけれど、まさかこんな場所で再会するなんて思いもしなかったからね」

私の胸はドクンドクンと波打っていた。

あの日、琉が泣いてる私に力をくれた言葉。

「Life isn't about waiting for the storm to pass.It's about learning to DANCE in the rain」

私の記憶にいつまでもしっかりと残っていた言葉を、琉の目をじっと見つめて言った。

「どうして今その言葉を?」

琉は自分の気持ちを押し殺したような表情で私を見つめている。

「不安だし、本当にこの気持ちが今でも正しいのかわからないけど。琉とダンスを踊りたい」

琉は視線を落としてフッと微笑んだ。

そして再び私に視線を向けて言った。

「今すぐ帰ろう、俺の家に」

私はしっかりと琉の目を見つめて頷いた。

もう迷いはなかった。

私は琉が好きだ。間違いなく。

そして、あの日の彼が琉だとしたら、琉は私を試したり弄んだりするような人なわけがなかったから。

琉と手を握り合ったまま席を立ち上がった。

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