君の思いに届くまで
頭からストンと柔らかいオレンジが落ちる。

着心地は最高だった。

柔らかいリネンが私の体を優しく包んでいる。

オレンジが私のはれぼったい顔を明るくすっきり見せていた。

「・・・好きかも」

そう呟いて試着室のカーテンをそっと開けた。

店員さんは「まぁ」と口に手を当てて大げさに驚くも「とてもよくお似合いです」と言った口調には嘘が感じられなかった。

「お客様はとてもこのオレンジがお似合いですね」

そう言って別の色のワンピースを私の前に重ねる。

店員さんが持って来たのはグレーのワンピースだったけれど、明らかに今着てるオレンジの方が私に似合っていた。

「これ、頂きます」

値段も見てないのに店員さんに伝えた。

すごく気に入ってたっていうのもあるけれど、健との待ち合わせも迫っていたからあまりゆっくり考える時間もなかったし。

「ありがとうございます」

店員さんは嬉しそうに笑ってペコリと頭を下げた。

久しぶりにおしゃれな服買っちゃった。

琉はこのワンピース着てる私を見て少しはきれいだと思ってくれるだろうか。

「3万5千円になります」

店員さんの声が私の耳元で聞こえた。

嘘。

そんな高かったの??

私の財布にはもちろんそんな大金入ってるわけもなく。しかもこれから飲みに行くわけで。

クレジットカードが財布に入っているのを確認してホッと胸をなで下ろした。

だけど、ワンピースの入った紙袋を受け取っても無駄な買い物じゃないって思えていた。

私は昔から買う洋服はほぼ一目惚れが多かったから。

例えどんなに高くたって、これを逃したら次はないって直感でわかっているようなところがあった。

久しぶりの高価だけどお気に入りの洋服が買えて胸がほくほくしていた。

ショックなことがあった後だけにまるで神様がくれた慰めのプレゼントみたいな気がする。

紙袋を右腕にかけてデパートの外に出ると、待ち合わせのお店に足早に向かった。


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