君の思いに届くまで
生中が運ばれてきて二人でグラスを合わせると、健は一気にグラスを空けた。

「喉渇いてたのね」

私はグラスに口をつけたまま唇の上に白い泡をつけた健の顔を見て笑った。

「笑うなよ。ヨウのために急いで来てやったんだからさ」

健は自分のゲンコツを私の頭の上でコツンとしながら、大将に生中をもう一杯頼む。

そして、突き出しを摘みながら「で、何があったの?」と私に目線だけ向けて尋ねた。

私は大きく息を吸い込んだ。

そして、今日あったことを思い出しながら、丁寧に健に伝えていく。

話しながら、一体私何やってんだろうって時々落ち込みながら。

全てを話し終わると、体中の力が抜けていくようだった。

誰かに苦しい胸の内を話せただけで少しだけ胸の奥のつっかえが取れたような気がした。

「驚いたな」

健は前を向いたまま小さく呟いた。

「まさか大学であの琉って奴と再会するなんてさ」

私は黙ったまま頷いた。

「で、全部記憶なくしちまってるわけ?お前のことも、お前と当時どうだったかってことも」

「うん。一瞬ヨウっていう名前で呼んでた?って思い出したみたいなんだけど、記憶が鮮明じゃないみたい」

「ヨウは、琉と再会してどうなんだよ」

「どうって?」

「お前の気持ち、だよ」

健は、残ったビールを更に飲み干した。

空になったグラスがカウンターに二つ並んでいる。

「ペース早くない?」

いつもより飲みっぷりがいい?健に思わず尋ねた。

「営業やってたらこんなの普通さ」

健は自嘲気味に笑った。

「私の気持ちは琉と出会った時から全く変わらないわ。会わなかった期間なんて一瞬で消え去った感じ」

「ってことは、まだ好き、ってことか」

「うん」

「お前のことまるっきり忘れてる琉をまだ愛してるってか?」

健の語調が少し荒っぽくなる。

「5年前の彼のことずっと忘れられないって?相手はすっかり記憶から抹消されてるのに?」

健は店員に冷酒を頼んだ。

「今日の健、きついよね、言い方が」

「だってさ、あまりにもお前の話がバカバカしくてさ。ヨウもしっかり目開けろよ。お前はどうしたいんだ?また琉とより戻して、イギリスにいたときみたいに愛し合いたいのか?」

「もちろんよ。あんなに愛せる人は他にいないもん」

健の目が私に向けられた。










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