素直になれない、金曜日

今日ずっと暗い気持ちから抜け出せていなかったこと、それから砂川くんにありがとうと言えなくて落ち込んでいたこと。


ぜんぶ、見抜かれていたんだ。



もちろん、どうして落ち込んでいるかとか、そんな細かいところまではわからないだろうけど、それでも。




私の気持ちを汲んでくれていたんだとわかって、胸がいっぱいになる。

少し、苦しいくらいに。




「ありがとう」




今度こそ、声に乗せることができた。




「別に」




そう答えたきみは、きっと、大したことじゃないと思っているのだろうけど。


ほんとうに『ありがとう』と心の底から思ってること、ちゃんと全部伝えられたらいいのに。




昼休みが終わる5分前、
予鈴が鳴ると同時に図書室の鍵を締める。




「また、金曜日に」




砂川くんと確実に会えるのは、一週間に火曜日と金曜日の二回だけ。


そのうちの一回が終わってしまうことを名残惜しく思っていると、とん、と頭の上になにかが載せられた。



驚いて視線を上に動かすと、その “なにか” は砂川くんの手のひらで。



その手はそっと私の頭を撫でてから、ゆっくりと離れていく。




「じゃあ、また」





砂川くんがそう言って、背中を向けて。


それからやっと彼に頭を撫でられたという事実に気がついて、体温が急に跳ね上がった。





なっ……なにあれ……!

あんなに自然な動作で頭を撫でるなんて、ずるい、ずるすぎる。



ああもう、人の気も知らないで。


私は砂川くんの一挙一動に心の中が振り回されてばかりなのに。





結局、昼からの授業は砂川くんのことで頭がいっぱいだった。


それもこれも砂川くんのせいだ、なんて。






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