素直になれない、金曜日



『桜庭さんは、それでいいの?』



突然、砂川くんが私の顔を覗き込んでくるから。

どきっと心臓が跳ねて、思わず一歩後ずさる。



『え……っと?』



驚きで、砂川くんの言葉が上手く入ってこなかった。
首を傾げつつ聞き返すと。



『俺と一緒で、桜庭さんはいいの?』



そ、そんなの。



『いいに、決まってるよ……っ』



いいというか、むしろ贅沢すぎる。

砂川くんにこくこく、と頷いていると。



『じゃあ、それで決まりで』

『日程とかはふたりで調整して、よろしく』




恭ちゃんと委員長先輩に代わる代わるひとこと残されて。

何事もなかったように、しれっと立ち去ろうとする恭ちゃんには思わず突っ込みそうになった。堪えたけれど。




そのあと帰り道。

ふたりで土曜日の待ち合わせ場所や時間等を決めている時にピコ、と音を立てて私のケータイにメッセージが届いた。


断りを入れてその場で確認すると、それは恭ちゃんからのもので。



[ 俺、いい仕事しただろ? ]

そして、そのあとにドヤ顔の絵文字。




思わずぼぼぼっと顔から火が出そうになる。




恭ちゃんのばかやろう。

砂川くんがそばにいるのに、今見るんじゃなかった……なんて後悔して。



『どうかした?』



そんな私の様子に砂川くんが首を傾げる。



『ううん、なんでもないよ』



……でも。

隣で歩く砂川くんの横顔を見上げて、思う。



金曜日が終わってしまえば、いつもは二日間、姿を見ることすらかなわないから。



───ちょっとくらいは恭ちゃんに感謝してもいいかな、って。



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