素直になれない、金曜日
恭ちゃんも私と同じで帰宅部だし、とそんな私の甘い考えはすぐに打ち砕かれた。
『ごめん、俺はパス。週末は店の手伝いすることになってんだよ』
そうだった。
恭ちゃんはいつも週末、家の豆腐屋さんの手伝いをしている。
ふわふわのパーマをあてて、髪もアッシュブラウンに染めて、制服だって緩く着崩してちゃらついた格好をしているくせに、週末は作務衣をきっちり着て真面目に手伝いをしているものだから、ギャップも甚だしいところだ。
恭ちゃんのお母さんもお父さんも、恭ちゃんのことはいい働き手なんだと言っていた。
……そっか、それじゃあ恭ちゃんが来れないのも仕方のないことだ。
恭ちゃんのとこの豆腐が人気なのは周知の事実だし、今は冷奴がよく売れる時期だから忙しいことこの上ないだろう。
『で、代わりに』
恭ちゃんが私に目配せする。
そしてちょっと得意げに口角を上げた。
その仕草にきょとんとしていると。
『砂川、とか適任じゃないかなって思うんだけど』
『えっ!?』
思わず声を上げてしまって、慌てて口元を押さえた。
なに言ってるの、恭ちゃん……!
『どう?』
恭ちゃんが砂川くんに向かって、こてんと首を傾げる。
今更ながら、恭ちゃんの意味深な笑みの理由を理解する。
私、そんなこと少しも頼んでいないのに……! 勝手な!
『俺は大丈夫ですけど』
と言いつつ、訝しげな表情の砂川くん。
その心情は手に取るようにわかる。
だって、突然先輩に名指しされるなんて、わけがわからないにも程があるよね。
恭ちゃんの代わりに、心の中でごめんね、と謝った。