包み愛~あなたの胸で眠らせて~
私たちは笑いながら、軽い足取りで歩いた。


「広海くん、嫌いな野菜ある?」

「いや、何でも食べれるよ」

「ピーマン嫌いじゃなかったっけ?:

「子供の頃はね。今は食べれるよ。それにしてもよく覚えているね」


野菜売り場でピーマン、しいたけ、にんじんをかごに入れながら、昔を思い出して笑う。


「だって、うちでお昼にナポリタンを食べた時、ピーマン嫌いだと泣いたじゃない?」

「そんなこと覚えていなくていいのに」


広海くんは口を尖らせたけど、20年前の共通の思い出を話せることが嬉しい。

あれは確か幼稚園に通っていた頃だ。『うちのにはピーマン入ってない』と広海くんの泣く姿に私はビックリして、一つ一つ取って私の皿に移した。

私もあまり好きではなかったけど、栄養があるからと食べさせられていた。

入っていたピーマンを全部取り除き終えた時、広海くんは満面な笑顔で『ありがとう』と言った。私は弟がいたせいか責任感が強く、困っている人を見たら助けたくなる子だった。

頼られることも嬉しくて、人が嫌がることも率先してやっていた。
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