包み愛~あなたの胸で眠らせて~
「紗世さ、会社で俺を避けているよね? それなのに一緒に行くなんて嫌じゃないの?」

「あー、うん、そうなんだけど。会社まで一緒に行くだけなら大丈夫かなと思って」

「何が大丈夫って? 何を心配しているの?」


広海くんはきっと会社での私の様子をおかしいと思っている。私が何かに怯えているのではないかと心配している。

何に怯えている、知りたいようだ。

言わずにいたいと思っていたけど、やっぱり言わなくてはいけないかな……。


「会社での紗世は、無理しているように思うんだけど」

「無理してはいないよ。ただ嫌われたくないだけ」

「嫌われるって、誰に?」

「それは」

「あれ? 紗世ちゃん? 今帰ってきたの?」


どう伝えたらいいかと迷いながらも口を開くと、ちょうど帰ってきた湊人の声が被った。

湊人は私を呼んだあとに広海くんを見て、首を傾げた。


「湊人、おかえり。あ、広海くん、ありがとう。また月曜日にね」

「うん、おやすみ」


湊人の登場で渋々した様子だったが、広海くんは帰っていった。背中を向けた広海くんを確認してから、私と湊人は家に入る。
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