不器用な殉愛
ここにいる患者は、皆、城の外から来た貧しい者達だと思っていたのに——城の使用人は、こちらには来ないように命じられているはずだ。
「俺も、うるさいことは言いたくないんだ」
床に直接敷かれた布団の上で、動けないはずだった患者が、這うようにしてこちらに近づいてくる。
「もうすぐ、ここを出ないといけない——その時、少し、先立つものがほしいだけ。そうすれば、あんたのことは誰にも言わない。悪くない話だろ?」
「手を、放して……」
スカートの裾を掴み、患者はディアヌを逃すまいとする。
「こう見えても、かつては城に出入りを許されていた貴族でね。俺は、こんなところで終わる人間じゃないんだ——少しでいい。王妃なら、宝石の一つや二つ、持っているんだろう?」
「わ、私は——そのようなものは」
「昨夜の宴ではずいぶん華やかに装っていたらしいじゃないか。宝石を持っていない、とは言わせないぞ」
たしかに宝石は持っているが、それはルディガーからの借りものである。男に渡すことなんてできるはずなかった。
「それは、私の、では」
おろおろしていると、不意に二人のところに影が差す。
「何があったの——『アメリア』?」
「いえ、たいしたことではありません」
すかさずジゼルが割って入る。こういうことがあるから、ルディガーも常にだれか側につけているのだろう。
「——そう。それなら、こちらに来て手伝ってくれる? ほらほら、そこのあなた! 怪我人なんだから、寝ていないと——わかるわよね?」