不器用な殉愛
 ◇ ◇ ◇

 

 ルディガーが行ってしまった後の城は、ずいぶんしんとしているように感じられた。ラマティーヌ修道院から来た人たちがいる分、施療院として使われている場所は人の数が増えているというのに。

「包帯の数は足りていますか」

「ええ、問題ありません。喉の痛みを訴える人が増えているので、喉の薬は足りなくなるかもしれません」

「では、準備をしておきましょう」

 施療院でいつものように手伝い、あわただしく一日が終わる。王の不在時に采配を振るう役は、ルディガーの側近が引き受けてくれているので問題ない。

 今頃ルディガーは、ラマティーヌ修道院に到着した頃だろうか。ジュールの先手を打っていられればよいのだが。

 夜になってから、ジゼルを連れて城内を見回る。采配を振るう者は他にいるのはわかっているが、自分の目で見て回らないと落ち着かない。

 ルディガーが留守を任せた者を信頼していないわけではなく——そうしないと、自分が不安だからだ。一日動き回り、疲れているはずなのに目ばかりさえて、何もできない。

「——この広間……ここに来るのは、久しぶりね」

「ご結婚の宴の時以来でしょうか」

「……そうかもしれないわね。あの時、私——」

 周囲の人の目にさらされるのが怖かった。自分に流れる血を突き付けられるようで。

 広間の中央に立ち尽くしているディアヌを、部屋に戻るようにとジゼルは促した。

「……そろそろ部屋にお戻りになりませんと。明日も早いのですから」

「そうね」
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