不器用な殉愛
「ジュール……お異母兄様……」
蛇に見つめられたカエルのように動くことができない。ジゼルが、ディアヌとジュールの間に割り込むように身体の位置を変える。
抜け道からこちらに入り込んできたのは、ジュール一人ではなかった。さらに十人ほどの兵士達が入ってくる。
「……どうして」
よくやく口にしたのは、その言葉。背中を冷たいものが流れ落ちる。なぜ、ラマティーヌ修道院にいるはずのジュールがここにいるのだろう。
「どうして? ああ、なぜ、俺が自分でここに来たかという理由か? お前を殺すため——あいつの留守中に、この城を制圧するため。ラマティーヌ修道院を占拠したら、あいつは俺の想う通りに動いてくれたぞ」
そう一気に口にして、ジュールはまた笑い声を上げる。彼の声はしんとした広間に不気味に響き渡った。
「さて、城を制圧してからお前を殺すつもりだったが……ここにいるのならばちょうどよいな。お前達、この二人をとらえろ!」
「お逃げください!」
剣を抜いたままだったジゼルが、ディアヌの背中を押す。ジゼルの気持ちはありがたかったが、このまま逃げたところでどうなるというのだろう。
どうせ、この城も制圧される。
その中で、多数の命が奪われるくらいなら、今ここでジュールに身をゆだねた方がいいだろう。どうせ、長生きできないのだから被害は少しでも少ない方がいい。
「いえ、いいわ……あなたの命を無駄にすることはない」
ジゼルの腕に手をかけて止めた。