不器用な殉愛
「——姫様!」
「いくらあなたが強くても、この人数を相手にしては勝ち目はないでしょう。無駄死にだわ——ひとつ、お願いがあります」
「なんだ?」
「ジゼルを……ラマティーヌ修道院の皆のところにやってください。命を落とすのは、私一人で十分です」
「嫌です! 私は、あなたと運命を共にすると決めました! 一人逃げることなどいたしません——!」
ジゼルとの間で口論になりかける。ジュールがあきれたような顔をして、こちらを見ていた。
「面倒だ、二人ともとらえ——」
ジュールの言葉が途中で途切れ、驚いたように目を見張る。彼の首には、後ろから刃物がつきつけられていた。
音一つしなかった。いつの間に、姿を見せたのだろう。
「ディアヌは俺の大切な妃で、ジゼルは大切な友人だ。勝手にとらえられては困る」
「なん……だと……」
首にあたる刃の感覚に、ジュールも動けないらしい。首をねじり、視線だけを背後に向ける。
「お前がラマティーヌ修道院に入ったところで、こうなることは予想していた。他の抜け道は、塞がれていたのに、ここだけ忘れられていたのはおかしいとは思わなかったのか」
「ルディガー様と一緒に城を出た後、こっそりこちらに戻ってきたんだ。お前の動きは、完全に予想できていたからな」
ノエルも別の兵士の首に短剣をつきつけている。
さらには、ヒューゲル侯爵もこの場に戻ってきていた。
「予想……だと……」
「我々の情報網を甘く見ない方がいいんじゃないかな。年寄りだと思って馬鹿にしていたか。それとも、女だと思って馬鹿にしていたか。出遅れたのは、否定しないけれど」