不器用な殉愛
置かれていた家具の後ろから、クラーラ院長が姿を見せる。
「——年寄りだとは思わないが、そろそろいたわった方がいいのではないか?」
「ルディガー、私のことをあまり馬鹿にしないでもらえるかな。ああ、そうそう。この抜け道の出口は塞いであるから、逃げようとしても無駄だよ、ジュール元王太子」
剣を持ったクラーラ院長の側には、ディアヌも知っている修道女達——今は戦装束に身を包んでいる——がいる。彼女達も、皆、剣を持っていた。
「施療院の警護も城内の警備も万全。さて、どうする?」
肩をすくめてクラーラ院長が問う。
「み、認めないぞ——、こんなの! 不意打ちとは卑怯ではないか!」
「抜け道からこっそり入ってくるのは卑怯ではないというわけか」
笑ったルディガーは、ジュールの首に当てていた短剣を放した。
「では、堂々と一騎打ち、と行こうか。シュールリトン王家、最後の王子。お前が勝てば、この城を好きにするがいい。俺が勝ったら——そうだな、今、この場にいる者達の命は奪わない。それでどうだ」
「甘いな、お前は」
笑いながらも、ジュールは剣を抜いた。
「まったく、どうしようもない子供だね」
「——自分で一騎打ちをすることはないだろうに」
クラーラ院長がため息をつき、ノエルがそれに同意する。
「……ルディガー!」
悲痛な声が広間の空気を切り裂く。
誰からともなく、首元に刃物を突き付けている者と突き付けられている者がじりじりと場所を移動し、広間の中央に開けた空間が作られた。
月の光が差し込む中、ルディガーとジュールが向かい合う。それは、絵画にでもしたいような美しい光景でもあった。