不器用な殉愛
 剣を抜いた二人が、にらみ合っているのを広間中にいる人間が固唾をのんで見守っている。

 自分が剣を構えて敵と対峙しているわけでもないのに、手のひらに嫌な汗をかいていた。呼吸さえもままならなくて、目の前がくらくらとする。

 強く瞼を閉じようとしたその瞬間。先に動いたのはジュールだった。すさまじい勢いで振り下ろされた剣をルディガーは自分の剣で受け止める。

 がつんと金属の打ち合わされる音がして、火花が散った。分が悪いと見たのか、ジュールが勢いよく飛びのく。

 再び二人の距離が空き、今度動いたのはルディガーだった。力強い踏み込みと共に放たれた一閃。

 受け止めたジュールがよろめき、二歩、後退する。剣を放したルディガーは続けざまに打ち込んだ。

 防戦一方に回るジュールだが、反撃の隙をうがかってはいるらしい。ディアヌのいる位置から彼の表情はよく見えなかったけれど、まだ余裕もあるようだ。

「まさか、これほどとは思わなかった!」

「夫の剣をくれた人がいたからな! それに——取り戻さないといけないものもあった」

「……そうか」

 また、剣が打ち合わされて火花が散る。見ているこちらの方が苦しいくらいだ。

 二度、三度と踏み込んでくるジュールを、ルディガーはあせることなく受け止める。どの位置から切り込んでも、ジュールはルディガーに怪我を負わせることはできなかった。
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