不器用な殉愛
「——くそっ!」
ルディガーの剣先が、ジュールの腕をかすめる。怒りの声を上げたジュールだったが、その怪我が彼の頭に血を上らせたようだった。
彼の目は、ルディガーを見ていない。彼の後ろにいるディアヌを見ていた。
「お前——お前のせい、だ! 父上の血を引いているくせに!」
兄から向けられる憎悪の目。兄と思ったことはなかったけれど、唯一残っている血のつながった相手から向けられるものとしてはあまりにも厳しいものだった。
「——お父様の血を引いたことを、呪わなかった日はありませんでした……!」
スカートを掴んだまま、声を上げる。偽らざる自分の心情だった。
父が何をしてきたのか、母が何をされたのか。修道院にいたって、外の噂話がまったく入ってこないわけではない。
それに、城に戻ってからも凄惨な光景は幾度となく見聞きしてきた。自分にできるのは、父や兄に怪我を負わされた人達に薬を渡すことくらいで。
身体じゅうの血を抜き、まったく違う血に入れ替えられるものならそうしたかった。
「よそ見をするな——俺は、目の前にいるんだぞ」
ルディガーが撃ち込んだ剣をジュールは受け止めた。そして、さらに反撃に出る。
ジュールの攻撃をようやく受け止めたように見えたルディガーだったが——力任せにジュールの剣を跳ね上げた。
ジュールがよろめいたところに、上段から勢いよく剣を振り下ろす。さらに、鋭く突き出した剣が、ジュールの胸を貫いた。