不器用な殉愛

「……嘘だ……」

 自分の胸に突き刺さったルディガーの剣を見つめ、ジュールが呆然とつぶやく。

「俺は約束は守る。お前と共にこの城に入った者の命は助けてやる——お前に、忠実に従った者だろう」

 ルディガーを通り越し、ジュールの目はディアヌを見ている。

 肉親としての情など、一度も感じたことはなかった。それなのに、彼の目から光が失われていくのを見ていると、ディアヌの身体からも何か失われていくような、そんな気がしてならない。何か言いたいのか、彼が小さく口を動かした。

「お……お異母兄様……」

 彼の名を呼ぶことは、できなかった。宙を掴むように伸ばしたジュールの手が、小さく震えて下に落ちる。

 それと同時に彼の瞼も閉ざされた。力を失い、ルディガーにジュールの身体がもたれかかる。ルディガーが剣を引くと、勢いよくあふれ出た血が、床の上に広がった。

 そのまま床に崩れ落ちたジュールの方へ、今まで刃物を突き付けられていたうちの一人が駆け寄る。

「——殿下!」

 ただ、一言。彼が発したのは一言であったけれど、その悲痛な響きに胸が抉られたような気がした。この事態を招いたのは——ディアヌだ。

 使用人達には容赦のない父と異母兄達であったけれど、それでも、慕ってくれる部下はいたということか。

 また、一つ——罪を重ねたのかもしれない。兄の死体を見下ろし、何か言わねばならないと思いながらも、言葉が出ない。

 不意に肩に触れられて、ディアヌは飛び上がりそうになった。跳ねる心臓を押さえつけようとしながら、見上げればそこにいたのはルディガーだった。

 彼の唇がゆっくりと弧を描く。安心させてくれようとしているのはわかっていたけれど、今は、彼の優しさによりかかってはいけないような気がした。

 無言のまま、彼の手をそっと外す。身をひるがえし、逃げるようにその場を後にした。
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