不器用な殉愛
 ◇ ◇ ◇

 

 城は、ジュールが命を落としたことでまた新たな歓喜に包まれていた。彼を破滅に追いやるに至ったディアヌの行動についても、今は称賛されている。

 ——けれど。

 人の心が移り気であることをディアヌは知っていた。

 今は、称賛されていたとしても、少しすればルディガーに対し、「もっとふさわしい娘を」という言葉が出てきてもおかしくないのだ。

 皆、シュールリトン王家の血について忘れているのが不思議なくらいだった。離縁を申し出るも、ルディガーはそれを拒むし、修道院に戻ろうにも、修道院の建物がジュールによって破壊されてしまっていたから、すぐには戻ることもできない。

 ディアヌの困惑をよそに、改めて行われる婚儀の準備はどんどん進められていた。あと十日もすれば、新たに忠誠を誓った貴族達も城に到着する。

「……よいのではありませんか。ディアヌ様——ずっと想ってる相手だったでしょうに」

「それは……だって、こうなるとは思っていなかったもの」

 幼かったあの日、命を助けられて以来、心の内で育ててきた想いは確実に育っている。それこそ、自分のすべてを犠牲にしても、ルディガーの悲願をかなえてもいいと思うほどに。

 それなのに、物事はディアヌの想っていたのとはまるで違う方向に進んでいて——婚儀の衣装を新たに選べと言われても、まったく手につかないありさまだ。

 前回は、母の衣装を手直しして身に着けた。十分美しい品だし、それで十分なのに、ルディガーはそれだけでは足りないという。
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