不器用な殉愛
「マクシム・ルフェーベル、元シュールリトン王。今からお前の処刑を執り行う。申し開くことはあるか」

 城の前に用意された処刑台。そこには多数の見物人が詰めかけていた。おそらく彼らの大半は、父や異母兄達にひどい目にあわされたことがあるのだろう。

 ディアヌは、彼らの視線を受け止めることができなくてうつむいた。いつの間にか、こんなにも多数の人が集まっているとは。

 父や異母兄の死の原因を作ったのは自分だから、彼らの死を受け止めるつもりでいた。

 だから、今日、この処刑の場に立ち会うことも自分で決めたというのに——人の目が怖い。

 ——いえ、ここで落ち込んではだめ。

 ディアヌは、改めて正面に向き直る。今、彼女がいるのは、処刑台のすぐそばに張られた天幕の下だった。

 隣には、ルディガーが立っている。彼も表情を見せなかったから、今、彼が何を考えているのかディアヌにはわからなかった。

 もちろん、この場に立ち会うと自分で決めた。そして、これから二年の間、どんな視線にさらされるのかもわかっている。

 それでもこれだけ人が集まっているところに立つのには恐怖を覚えずにはいられなくて、思わずうろうろと視線を泳がせた。

「——申し開きだと?」

 処刑台の上、両手を後ろで束ねられたマクシムが吠える。最後の情けと言うことなのだろうか。牢の中に閉じ込められていたにも拘わらず、風呂をすませ、髭もそり、髪もきちんと整えられていた。

 いくぶん腹の出ていた父も、そうしているとずいぶんと堂々として見える。一度は、その頭に王冠を抱いたのだ。
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