不器用な殉愛
その危険を冒してでも、ルディガーに会わなければならない理由があったのだろう。
そして、十年ぶりに顔を合わせたディアヌの申し出は、思ってもみないものだった。
父と兄の死。そして、シュールリトン王家の家臣達を、「法にのっとった手段で」支配下に置く方法としての婚姻だった。
二年間、白き婚姻を保ち、その後、離縁して自分はラマティーヌ修道院に戻るという。離縁の理由ならば、どうとでもできると、まっすぐにルディガーを見つめる目には揺るぎはなかった。
下着の中に隠してきた絵図を差し出した時の顔は、羞恥に染まっていた。
絵図を渡し、また自分の身の危険を顧みずに戻っていく。彼女の堅い決意を、ルディガーは止めることができなかった。
見送り、強く拳を握りしめる。
——そういうことをさせたかったわけじゃない!
がんと、壁に拳を叩きつけた。
「——ルディガー様、今はそれどころじゃない。姫君の持ってきてくれた絵図を確認せねば。もし、この情報が正しいものであるならば、これは大きな助けになる」
「——陛下!」
ノエルの言葉を遮るように、向こう側から慌てた様子で部下が走ってくる。彼の手には、一枚の紙があった。
「——ヒューゲル侯爵からの使者です。これは、ヒューゲル侯爵の書いた身元を証明するためのもので」
「——よこせ」
部下の持ってきた紙を受け取り、目を通す。そこには、たしかにヒューゲル侯爵の手になる証明書があった。
「その男は、まだいるか?」
「待たせております」
「——会うぞ。先ほど受け取った絵図、正しいか否か彼に確認してもらえばいいだろう」
部下に使者を謁見の間に通すように告げ、絵図を持ったノエルと共に、使者の待つ部屋に入る。今日はずいぶんと慌ただしい夜になりそうだ。