不器用な殉愛
そこにいた男にルディガーは見覚えがあった。ヒューゲル侯爵は身元を証明する書類を持たせてきたが、以前、侯爵と顔を合わせた時、この男が供の中にいた。
男は、ヒューゲル侯爵からの書簡を届けてきた。さらに、口頭で記録には残せなかったことを告げる。
「侯爵は、南の壁の守りにあたっています。まずはそこを崩してほしいと」
「この絵図だが、これが正しいかどうかわかるか?」
「——これは」
ルディガーがテーブルの上に広げた書類を見て、使者は驚いたように目を見開いた。じっと絵図を見つめるその手が震えている。
「これは、いったいどこから持ってきたのですか——こんなに詳しく、正確に——まさか、城内に協力者がいるのですか。侯爵のほかに?」
「さあ、それはどうだろうな。これは、内部から持ち出されたものなのだが、お前の反応を見ていると正しいようだな」
「——はい」
衝撃からようやく気を取り直したように、男は胸に手を当てて一つ息をつく。それから、兵士達の部屋となっているところに指を置いた。
「ここは、今は絵図にあるより手薄になっております。そして、南の壁はこの絵図では手厚く守られていることになってますが……ここは、侯爵の守っている場所ですので」