不器用な殉愛
「ディアヌ王女がいるのは、このあたりか」
ディアヌが持ち出してきた情報は、どうやらおおむね正解だったようだ。彼女を信頼していないというわけではない。ただ、慎重であった方がいいと思う。
「はい。ここは、ブランシュ王妃が使っていた場所でした。ですが——」
唇を男はぎゅっと結ぶ。それから、思い切ったように一息に続けた。
「この区域の扉は、外から鍵がかけられるようになっています。ですから、ディアヌ姫を閉じ込めようと思えば——」
「そのような真似をするのか?」
「王太子殿下は、以前よりディアヌ姫をその区画から外に出すべきではない。鍵をかけて閉じ込めておくべきだと言っておいででした」
先ほど、この陣を訪れたディアヌの様子を思い出した。多数の男に囲まれ、緊張に身体を震わせていた。ずらした衣服の間からのぞいたまろやかな白い肌。
震えながらも、最後まで気丈に交渉の場に立って見せた。そんな彼女を閉じ込めておく理由がわからない。
「なぜ、彼女を閉じ込めるべきだというのだ」
「ディアヌ姫が兵士達の間に入っていくことで、王家に対する畏敬の念が失われると。そう考えているようです。家臣である私の口から言うのも問題があるかもしれませんが、その言葉の裏には、違う何かがあるような気がします。おそらく、憎しみに近い感情を抱いておいででしょう」
「……そうか」
マクシムとブランシュ王妃の関係を考えれば、そこに複雑な感情があるのだろう。