不器用な殉愛
——待っている、と彼女は言った。ならば、すぐに迎えに行くべきだ。シュールリトン王家の者達が、異変に気付く前に。
「夜が明けるのと同時に、攻め込むぞ。準備しろ。ノエル、行け」
「はいっ!」
急ぎ足にノエルが立ち去る。それから、ヒューゲル侯爵の使者に向かい、ルディガーはたずねた。
「お前はどうする?」
「もし、陛下がご希望でしたら、案内人としてお使いください。今から戻っても見つかるだけですし、私は、たいした身分のある者でもないですから、いなくなったところで問題ありません。これは、主の命でもあります。信用できないようでしたら、縛り上げてどこぞに監禁するなり——あまり気が進みませんが、首を落としていただいてもかまいません」
「それも、侯爵の命令か」
無言のまま、相手はうなずいた。これだけの忠誠心を向けられるとは、ヒューゲル侯爵は単なる裏切り者というだけではないのかもしれない。
「わかった。決戦の前に無駄に人死にを増やすのも気が進まない。明日、案内役を頼もう」
「かしこまりました」
「今、部屋を用意させる。出発までに少し休め」
もう少し。父の仇をとるまであともう少しだ。それを思えば気がはやるが、冷静でいることは忘れてはならない。
テーブルの上に置かれた絵図をにらみつける。
ヒューゲル侯爵の守っているという南の壁から攻めていくのがいいだろうか。それから、あの男を案内人として、ディアヌのいる区域までたどり着く。
ジゼルがいる以上、命がけで守るだろうが安心はできない。
不意に、剣の腕は上達したのだろうか——と思う。あの頃は、剣を取り落とすたびに泣いていたが。