不埒な先生のいびつな溺愛
この時間に久遠くんがいる場所は空き教室だ。

この真っ赤な顔でそこへ駆け出して行くことを期待している絵里たちの言う通りにすることは癪だけれど、でも久遠くんがここへ寄ってくれたと聞いてしまっては、私もこうしてはいられなかった。

久遠くんにとっての私なんて、いてもいなくても同じ、空気のような存在だと思っていたけれど、彼が私を呼び出すなどという一番やりそうもないことをされて嬉しくないはずがない。

絵里に言われて、仕方なく空き教室へ行くというふりをしたが、私はひとりになってから、ダッシュに切り替えた。

スパン、と空き教室のドアを勢いよくひくと、予想どおり中にいた久遠くんはビクンと反応した。

「……秋原」

いつもどおりの久遠くんの顔を見て、私はドアを開けたまま、しばらく痛みを感じるほどの呼吸をしていた。

ここはいつも時間がゆっくりと流れているのだが、今日もここへは猛スピードで向かってきたはずなのに、扉を開いて久遠くんを見つけた瞬間に、時間が止まったようだった。

「ハァ、ハァ、久遠くん、何か用だった?」

嬉しくて舞い上がりながらここへ来たことを悟られないように、声のトーンを落としてそう尋ねた。

久遠くんはバツが悪そうにそっぽを向いた。
彼はサイドの髪をクシャッとかきあげて、面倒そうに答えた。

「別に何でもねえよ」

「何でもないことはないでしょう?わざわざ私のクラスに来るなんて」

「たいしたことじゃねえっつーの。早く次の本寄越せって言いに行ったんだよ」
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