不埒な先生のいびつな溺愛
久遠くんが手に持ってくる本は、私が貸している『屈折』という本だった。

私が貸した本を自習時間まで読んでいた、ということ。

読むことを選択したのは久遠くんだが、早く感想を聞きたいと急かしてしまった私にも責任はある気がして、私はその場から動けず、冷たくなった背筋を猫のように丸めて、その騒動に耳を立てているだけだった。

「俺が何しようと俺の勝手だろ。誰の邪魔もした覚えはねえよ」

もう、なんであんな言い方になっちゃうかな、久遠くんは……。

久遠くんが面倒そうにため息をついたことで、予想どおり、その男子はさらにヒートアップしていく 。

「だから迷惑してるっつってんだろ!こっちは必死でやってんだから、そういうの傍でやられちゃ気が散るんだよ!皆がそう思ってんの気づかねえのかよ!」

すると、その男子に賛同するクラスメイトたちの冷たい視線が、一斉に久遠くんへと向けられた。

久遠くんの後ろ姿の向こうの、そのたくさんの敵意の視線を目の当たりにして、私は一瞬で震え上がった。

久遠くんも同じものを見ているはずなのに、彼は平気なんだろうか。

「ならやめろよ。受験するって決めたのは、アンタらだろ。俺じゃねぇよ。自分が上手くいかねぇのを俺に当たるな」

久遠くん……。

ハラハラしながらここで聞いていたけれど、やっぱり久遠くんは、相手が触れてほしくないところまで、気にせず言葉にしてしまった。
言っていることは全くの正論でも、頭の良い久遠くんがそう言ってしまっては、皆、嫌味にしか思わないだろう。

私は頭をかかえた。

久遠くんは本当は悪い人じゃないけれど、これでは悪い人だと思われても仕方がない。久遠くんはそれでいいのかもしれないけど、私は嫌だ。
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