がらくたのハート
1 人間は難しい
『博士、今帰りましたよ。今晩は、博士の好きなビーフシチューのパイ包みです』

「おお、ボロか。おかえり。牛肉はどこの産だね?」

『勿論、イスト産です』

この白髭の老人が、マルジロ博士です。 髭を指に巻きながら、考え事をするのがクセなんですよ。
だから、髭は油で黒く汚れている事もしばしば……。


『博士、また髭が汚れてますよ』

「いかんいかん、考え事をするといつもこうだ。そうだ、今日は客人が来るからな。風呂に入って落としてくるか」


客人? ええと、ワタシのデータには……そうそう、カノンさんを食事に呼んでいたのです。


彼女は、羊飼いをやっていてたまに良質な羊毛をくださるんです。


栗色の髪に、ブルーの瞳をしているんですよ。

さて、カノンさんが来るまでに料理を完成させなくては。

結構美味しいと評判なんですよ。ワタシの料理。

ワタシには、味は分かりませんがみんなは喜んでくれます。


ワタシには、オイルがあれば十分です。
食べなくても死ぬ事はありませんから。


痛みも熱さも感じません。だから、包丁が指に当たっても、沸騰したお湯に手を入れても何も感じません。


便利な体でしょ?


人間は熱がったり痛がったり泣いたり笑ったり、忙しいですね。
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