仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
それって、さっきの些細な嘘もだよね。

エンドレスに流れている音楽が追い打ちをかける。

罪悪感で苦しい胸を押さえていると、「琴石、お待たせ」と頭上から声がかかった。

濃紺にストライプ生地のスリーピーススーツを着た青年が、A五判のスケジュール帳を持って足早にこちらへやって来る。

新人時代から担当してくれているマネージャー・小野寺(おのでら)さんの登場に安心して、私はつい肩の力を抜いた。


「おはようございます、小野寺さん」

「おはよう」

スラリとした体躯に長い手足。磨かれたロングノーズの黒い革靴。
淡いネイビーのネクタイは、彼の誠実な人柄を表しているように見える。

身長は百八十センチくらいだろうか。
清潔感のある艶やかな黒髪は、お洒落に整えられていた。

現在二十七歳だという小野寺さんは、学生時代までモデルをしていたらしい。

しかし大学卒業後「マネジメントやサポート業の方が自分の力を存分に発揮出来る」と考え、マネージャー業に転身したそうだ。

今でもマネージャー業をしているのが不思議なくらいの超絶爽やかなイケメンで、初対面の人々からは『特例で事務所に所属している男性モデル』かと見間違われるようなお人だった。
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