仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
「常盤社長、こちらへお願い致します。もう一度イメージの擦り合わせをさせてください」

ディレクターさんが常盤社長を撮影機材の方へ誘導する。
途端に、スタッフさん達は魔法が解けたかのごとく慌ただしく動き出した。


ヘアメイク担当のスタッフさんがやってきて、私の背中へ手を添えるようにして撮影現場を出る。
そのままフィッティングルームへ案内してくれた。

別の衣装へ着替えてメイクを変更し、ヘアチェンジを始める。

彼女は私の髪を結いなおしながら「大丈夫ですよ。素敵に撮れてましたから」と慰めの言葉をかけてくれた。

「ありがとうございます」と元気な笑顔で返す。
しかし鏡には、感情が抜け落ちたような真顔の自分が映っていた。


「今のうちにお手洗いへ行かれませんか? 休憩時間もあと十五分あるそうです。気分転換に一階のジュエリーショップへ行かれても大丈夫ですよ」

彼女は、「キラキラのジュエリーを見て癒されてきてください」と向日葵のような笑顔を浮かべてくれる。

「お気遣いありがとうございます。それじゃあ、ちょっと行ってきますね」

その笑顔に背中を押され、私はフィッティングルームを出た。



フロアにある美しいドレスが今は色褪せて見える。

通路を歩き、まずはお手洗いへ向かった。
< 49 / 195 >

この作品をシェア

pagetop