仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
芹沢さんはこちらに背中を向けてソファに座っているので、その表情は見えない。しかし語気の強さに、彼女が相当怒っていることがうかがい知れる。

「彼女を降ろして他のモデルに変更した方が良いでしょう。彼女のあの表現では、ブライダルサロンへ友人と一緒に来ているような作品になってしまいます。うちとしても、これは望んでいない事態です」

心臓がドクンと嫌な脈を打った。

「うちには琴石結衣よりも素晴らしいモデルが多く在籍しています。そうですね……彼女の代役には『ペルラ』で今最も推しているモデル――媛乃(ひめの)はいかがですか? 彼女の表現力なら素晴らしい作品になるはずです」

媛乃ちゃんの名前が出てきて、そうだ、芹沢さんは媛乃ちゃんの担当マネージャーさんだったと思い出す。


……この先、どうなってしまうんだろう。


ドクン、ドクンと鳴り続ける鼓動が、身体中に悪い予感を駆け巡らせる。


ソファに座っている常盤社長は、左肘を右手で支えるようにして腕を組む。流れるような動作で左手の指先を顎にかけ、考え込むような仕草をした。
その様子は、まるで国を憂う王子様のようだ。

「なるほど。確かにそうですね。表現力が豊かであることに超したことはない」

そう言った彼の表情は、私の前で見せた冷めたものではなく、ただただ甘く蠱惑的な王子様の顔つきだった。
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