仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
不意に、常盤社長は私に気がついたようにチラリと視線を向けた。

私はビクッと肩を揺らす。
一応目礼してみるも、ふいっと視線をそらされた。

視線が合ったように思ったけど、気のせいだったのだろうか?

常盤社長は何事もなかったかのように、彼の正面に座る芹沢さんへ王子様然として微笑んだ。

「代役の件、考えてみましょう。返事はまた後日」

そうして、まるで何かを企むように彼の唇がひっそりと弧を描く。


ど、どうしよう……!

私はその場から逃げるようにくるりと方向転換すると、音もなくフロアを疾走した。

近くにあった使用されていないフィッティングルームに、慌てて飛び込む。

ドアを閉めるのも忘れて壁際にへたりこんだ。


このままじゃ、せっかく常盤社長から貰えたお仕事が、媛乃ちゃんのものになっちゃう!


媛乃ちゃんは、凄く良い子だけど……なんでだろう。

「このお仕事だけは、渡したく、ないなぁ……」

ぽつりと呟いた声が、お姫様のために作られたかのようなフィッティングルームに溶けた。


シンデレラストーリーは、私ではなく媛乃ちゃんに用意されていたのかな。

もしこのまま、このお仕事にしがみついたら。私は、シンデレラの悪い義姉になってしまうのだろうか。
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