仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
ぼんやりと、純白の天井を見つめる。

天井から下げられたシャンデリアは、舞踏会の後のように寂しく感じられた。





「“恋を知らない琴石結衣にはまだ早い”、だってさ」
 
無音の室内で突如響いた声にハッとする。――腕を組んだ常盤社長が、ドア枠に寄りかかるようにして立っていた。

へたり込んでいた私は、慌てて、ぎこちなく立ち上がる。

常盤社長は冷淡な顔つきのまま、私の頭の天辺から爪先までゆっくりと視線を動かした。
全く興味の無いものを切り捨てるために観察しているかのような温度の無い冷血な視線に、体温はさらに冷えていく。

「君には臨場感が欠けてるんだよね。本物より本物らしく。そうしないと、お客様はどうやって君達の“幸福感”を媒体から感じ取って、共感したら良いのかわからない」

常盤社長は、革靴の音を立てながら私に近寄る。

そして先程までの冷血な表情を崩すと……
王子様のような美貌に、緩やかに甘美な微笑みを浮かべた。

「言ってる意味は、わかるかな?」

私の髪を柔らかく撫でながら、蕩けるような琥珀色の瞳をうっとりと細める。
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