仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
豪華すぎる夕食を終えた後。
シェフの男性は「慧様を宜しくお願い致します」と私に挨拶を残し、ホテル・エテルニタ東京へ帰って行った。

どうやら先ほどの会話から、常盤社長の恋人か何かに勘違いされていたらしい。

常盤社長のご自宅にお邪魔して夕食までご馳走になってしまった手前、『個人的に彼とお付き合いしているわけではありません』なんて言うわけにもいかず、私は曖昧に微笑むことになった。



時刻は、既に二十一時を過ぎてしまっていた。

私の荷物は必要最低限の物しか入っていないバッグひとつ。
ほぼ手ぶらで来てしまったのに、今日から常盤社長と一緒にここで住むなんて、やっぱり現実的ではない。

今日のところは一旦帰って、後日また荷造りをして訪れた方が良さそうだ。

「あの、常盤社長。今夜はお暇させていただいて、また後日……」

そう口にしたところで、常盤社長が私の唇に「結衣」と甘やかに人差し指を押し当てた。

「誓約書にはちゃんと法的拘束力があるんだ。君はもう、僕から逃げられない」

彼はニヤリと口元に嫌な笑みを浮かべる。

「明日も仕事だ。早くシャワーを終えて寝ないと、ね」

逞しい腕を私の腰に回し彼の腰の方へと抱き寄せると、悪戯っぽく耳元で囁いた。
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