仮初めマリッジ～イジワル社長が逃してくれません～

「君だからプレゼントしたいんだ。僕好みに君を着飾りたい。君は僕の婚約者なんだから当然だ」

「でもそれは！　“婚約している女性”としての表現力を身につけるための、婚約者という役で……」

ウォークインクローゼットの中で佇む私の肩に手を置くと、恋人におくるような甘い笑みを浮かべながら、常盤社長は私の顔を覗き込んだ。

「言ったよね？　君は、僕の意図を完全に表現するために『僕に従って、僕の特別授業を受けること』」

「はい。覚えて、ます」

「それなら話は簡単だ。これも僕の特別授業ってこと。理解できた？」

その問いかけに、私は不本意ながら首を縦に動かす。

「結衣。頭の中で自分は“婚約者という役”だって常に考えていたら、結局君は今後も変われないよ。撮影期間は二ヶ月なのに、君の表現力はいつ伸びるの？　五年後？　十年後？」

「それは、その」

図星をつかれ、常盤社長から視線をそらす。

彼はクスッと小さく笑うと私の頬を大きな両手で包み込んだ。

「結衣、僕を見て」

ちょっぴりムッとしながら、二十センチ以上高い位置にある彼の顔を見上げる。

彼の熱を帯びるような瞳と視線が絡み合った。