仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
「け、慧さんっ!」

まるで守護の呪文ように急いで彼の名前を呼んでみれば、彼は長い睫毛に縁取られた瞳をぱちくりと瞬かせてから、おとなしく私を解放した。
私はホッと息を吐く。

契約を結んだ時みたいに、キス、されてしまうんじゃないかと身構えていたけど……。
どうやら私の心配しすぎだったようだ。

「くくくっ」

彼は軽く握った拳で口元を隠し肩を震わせながら、可笑しそうに笑い声を噛みころしている。

こっちは恋愛経験なしの初心者なんだから、こんな意地悪なことしないでほしいのに!


もう! と思いながら、私は横目で恐々と『脱がせたいやつ』とコメントされた下着の詰まった引き出しの中を覗く。

まるでランジェリーショップレベルの品揃えだ。
慧さんの脱がせたいと思った回数に驚愕するしかない。

私の視線の先に気づいたのか、彼がキャビネットの中に手を伸ばした。

「僕としては、こういうのも悪くないと思うよ。凄くそそられる」

そう言って、慧さんは黒い下着を手に取る。
ひらりと総レースのブラが露わになり、自分が着たものでもないのに赤面してしまった。
< 83 / 195 >

この作品をシェア

pagetop